2050年カーボンニュートラルの実現に向け、住宅の省エネ化が進む
政府は2020年6月に「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しました。そして2021年4月に2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、「2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減する。さらに50%の高みに向けて挑戦する。」ことを目標に掲げました。ここの2050年の脱炭素社会の実現に向けて、建築物分野はわが国全体のエネルギー消費量の約3割を占めため、住宅・建築物の省エネ化が急がれています。
2030年度及び2050年度に向けた住宅・建築物に対する明確な方向性が示された
政府は、2050年に向けて、新築住宅・建築物の省エネ性能を向上させるために、段階的に規制の強化を実施していきます。
2030年度、2050年度に向けた取組は、次のものです。
・遅くとも2030年度までに、新築住宅・建築物は、建築物省エネ法に基づく省エネ基準を
ZEH・ZEBレベルに引き上げ、及びZEH・ZEBの標準化を目指す。
・2050年度までには、住宅・建築物のストック平均で、ZEH・ZEB基準の水準の省エネルギー
性能の確保を目指す。
この目標に向けて、政府は住宅・非住宅を高性能な省エネ建築物にすることを目指して、今後次々と法改正を行っていきます。対応の準備が必要ですね。
脱炭素の実現に向け、小規模住宅も例外なく省エネ基準適合を義務付け
2025年4月に原則全ての新築住宅・非住宅は省エネ基準に適合を義務化
令和4年(2022年)6月17日に「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第69号)」が公布されました。
即ち、建築物省エネ法が改正され、原則すべての新築住宅・建築物は省エネ基準に適合することが義務付けされました。その法律の施行は、公布から3年以内とされ、令和7年(2025年)4月1日に施行されることになりました。
小規模住宅も説明義務から適合義務へ改正される
これまで新築の大規模住宅(床面積2000㎡以上)、中規模住宅(床面積300㎡以上)は届出義務に留まっていましたが、2025年の法改正から省エネ基準適合義務になります。
また、300㎡未満の小規模の住宅や非住宅は、現在は、2021年4月より始まった、建築士からの建築主に対して省エネ性能の向上にむけての取り組みを促す「説明義務制度(適合努力義務)」で良いことになっていますが、2025年4月より省エネ基準適合義務に改正されます。
適合義務化の対象は工事着手時期で見極める
省エネ適合に義務付けられる新築住宅は、どのタイミングからが対象なのでしょうか?
2025年4月の建築省エネ法の施行日以後に、工事に着手する住宅・非住宅の建築が対象となります。
省エネ適合義務化に伴って4号建物の条文がなくなり、4号特例縮小
全ての住宅や非住宅に省エネ基準への適合が義務付けられることにより、4号特例の見直しがされ、2025年には4号特例の条文がなくなります。
現在では、4号特例に当たるものは、確認申請において構造安全性の確認は簡易方法の「仕様規定」で良いとされています。また建築士が設計する場合は、確認申請の時の構造の安全性の審査が省略されています。
しかし、2025年4月の建築物省エネ法の改正により、4号建物という文字が条文から消えてしまいます。
4号特例は縮小した形になり、建築確認・検査や審査省略制度の対象範囲が見直しされ、建築確認制度の申請の手続きが変わることになります。
それにより、建物の構造や地域によらず、省エネ基準適合の審査はもちろん、構造の安定性についての審査も必須になるケースがあります。
増改築の場合の省エネ基準への適合について
増改築した場合の住宅の省エネ基準の適合についても、2025年度から変更されます。
現在の法規では、増改築した建物の全体を計算して、省エネ基準に適合することになっていますが、2025年4月の建築物省エネ法の改正では、増改築を行う建物部分のみが省エネ基準に適合していればよいことになりました。
今までハードルが高かった既存住宅の省エネ化も、この法改正で行いやすくなります。
【省エネ基準適合の増改築の工事】
・増築部分の壁、屋根、窓等に、一定の断熱材や窓等を施工する。
・増築部分に一定性能以上の空調や照明等の設備を設置する。
それらによって増改築した部分が省エネ基準に適合すればよいということになります。
2025年4月より、3階建て木造建築物の簡易な構造計算の対象を拡大
現在は、3階建てで高さが13m又は軒高が9mを超える建築物は、高度な構造計算を行う規定になっており、一級建築士でなければ設計や工事監理が行うことができません。
二級建築士の場合は、高さ13m以下かつ軒高9m以下の建物であれば、簡易な構造計算、例えば許容応力度計算により、設計や工事監理を行うことができます。
2025年の構造規制の改正で、簡易な構造計算で建築可能な3階建て木造建築物の範囲が拡大
具体的には、改正後は、簡易な構造計算ができる対象を、高さ16m以下に拡大します。それによって建築士法も改正し、二級建築士が高さ16m以下の3階建て以下の木造建築物の設計及び工事監理を行うことができるようになります。
それに伴い、建築確認申請で、構造の安定性の審査や検査をおこなうことで、木造住宅を消費者が安心して取得できるようになる効果も狙っています。
建築確認申請で、省エネ基準適合性判定と構造安全規制の審査を一体に実施
2025年4月より、省エネ基準適合性判定審査と構造安全規制の審査は、建築確認申請時に一体となって行われることになります。しかし、省エネ基準適合義務化により、審査件数が増えることや、審査内容が増えることに対する懸念から、手続きや審査の合理化が図られ、審査が不要、省略などの建物も決めて合理化が図られます。
■省エネ基準の適合性審査が不要な建築物
平屋かつ200㎡以下の都市計画区域・準都市計画区域の外の建築物
■建築基準法における審査・検査省略される建築物
建築士が設計・工事監理を行った平屋かつ200㎡以下の都市計画区域・準都市計画区域の内の建築物
■省エネ適判手続きが省略される建物
仕様基準による場合(省エネ計算なし)など
2025年のすべての住宅・非住宅の省エネ基準適合義務化によって、省エネ計算や構造計算が必要になり、建築確認申請への対応の仕方も大きく変わりますので、まだ期間があると思っても、対応がすぐにできない内容もありますので、今からの準備が必要になります。
そのためには、今後どのような改正がされるのか、内容についてなど、
情報を予め得ておく必要があります。
2025年の省エネ適合義務化の後に、また次の省エネ基準の変更がある
2025年の省エネ基準適合義務化で、省エネ住宅の基準は終わるわけではありません。省エネ基準適合義務が始まりで、2025年の省エネ基準は最低基準の省エネ基準となります。2030年度頃には、さらに省エネ基準は変更する予定ですので、最低基準の省エネ性能の家では今後の省エネ基準に対応できない既存住宅になってしまう可能性があります。
住宅を販売するにおいても、今後の省エネ住宅の企画の戦略を組む時が来ています。
2030年度以降の省エネ基準については、「2030年までに新築住宅は、ZEH基準の水準へ」の記事を参考にご覧ください。
以上は、2022年12月現在の情報であるため、変更される可能性もあります。
参照:国土交通省ホームページ「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第69号)について」